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宝石研磨セット 番外編(穴開け加工) [宝石加工]

お得意様から穴を開けてもらえないか?と言う連絡を頂いた。委託生産・加工はやっていないので丁重にお断りしたのだが、穴開けの質問を受ける事がよくある。反転器が無いと貫通時にエッジ割れが発生してしまう事が多い、結構難しい加工だ。私もあまり上手では無いのだが、番外編として穴開けについて書いてみたいと思う。

機械加工は皆同じなのだが、固定する、適切な刃物・スピードを選ぶ、熱を逃がすの三要素が重要だ。

石が動かない様に固定するのは結構難しい。曲面で構成されているので複数の点をサポートしなくてはならないからだ。良く紹介されているのは、ワックスや接着剤で板に固定して、その板を万力などで咥えると言う固定方法だ。しかし、接着剤は水や熱で緩む事があるので注意が必要。私は添え木を使い万力で咥える事が多い。ビットを垂直に立てるのも難しい。表面で滑ってしまう場合にはリューターで窪みを掘ってからビットを立てる様にしている。

硬い石ではダイヤモンドビットを使わなくてはならないが、オパールやラリマーならば超硬のビットでも穴開けは可能だ。ダイヤモンドビットの場合、先端に展着しているダイヤモンド粉で削りながら掘るので高速で強く押し当てるとダイヤが剥がれ落ちてしまいすぐに削れなくなってしまう。達人は「少し擦り合わている内に適当なすり合わせが出来てスルスルとビットが入って行く」と言うのだが、小生には体感できない感覚でアリマス。削りカスを排出する事も重要だ。ビット先端と石の間に削りカスがあるといくら擦っても削れない。螺旋のビットを使うか、カスを取り除きながら掘り進める事になる。柔らかい石ならばPCB基板用の超硬ビットが使いやすい。安価でガラスの硬度まではサクサクと穴開けが出来る。

熱を上手く逃がさないと石が割れたりビットが折れたりする。水の中で加工できれば良いのだが大きなセットが必要になるので、私は穴の周りにパテや粘土で土手を作り少しばかりの水を溜めている。少しでも水が有れば熱は逃げる。但し、貫通すると下に水が抜けるので注意が必要だ。

抜ける所のエッジが割れない様に加工するには、貫通ギリギリのところで止めるのがコツなのだが、寸止めは説明するのが難しい。何度も穴開けをしているとビットの先端が石を抜ける時の感触がわかってくる。ビットが少し覗いたところで石を外し、反対側から削って貫通させると言う訳だ。

頻繁に穴開けするのではないならば、リューターにダイヤモンドビットを付け手持ちで擦り切っていくのが無難だろう。精度良く穴を開ける事は出来ないが、ビットの振動や、石の熱が手に感じられるので無理な力や温度がかからないと言うメリットがある。人が指で持っていられる程度の力、温度であれば石を壊す危険性は少ない。いつも言う事だが、加工する際には安全具を付けてくれぐれも怪我にお気を付けくださいマセ。

宝石研磨セット④ [宝石加工]

書き終えた!と思って居た宝石研磨セットの説明が...ぜんぜん途中でした。年は取りたくないものでアリマス。③ではドップに石を留める所まで書きましたので、かなり長くなってしまいますが実際の加工について説明しましょう。

通常はキャビンと呼ばれる(グラインダーのホイールが6蓮になっている様な)研磨機を使うのですが、丁寧に加工したい場合には耐水ペーパーを使って手作業で加工しますので、その方法を書いていきましょう。

1.粗加工
ドップに固定された後に全体の形を整えたいのならばダイヤモンドヤスリか粗いサンドペーパーを使うのが良いでしょう。ダイヤモンドヤスリとは「ダイヤモンドで出来たヤスリ」では無く、ダイヤモンドの粉が表面に展着してあるヤスリの事です。高そう!と思うかもしれませんが、ダイヤモンド粉は高い材料では無く、大きなDAISOであれば売っている程度の価格ですからご安心を。土や色の悪い部分をヤスリ取り、全体の形を整え終えたならばサンドペーパーの工程に移ります。

2.削り
ここから先は水を使って加工することになります。エチオピアオパールは吸水性があります(ハイドロフェーン)ので一度水を含ませたならば乾かさずに加工を進める方が無難です。理由は「4.石を外して乾燥させる」を読んでください。加工を途中で止めるならば、濡れた布で巻いておくか、ジップ等の密閉容器に入れて乾燥しない様にする方が良いでしょう。
#600の耐水ペーパーに水を垂らし、石をこすり削って行きます。水は、摩擦熱を冷やす効果と剥がれ落ちた大きな砥粒を排出する効果があるので必須です。カボション形状ならば耐水ペーパーの下に5mm厚程度のスポンジを敷くと良いでしょう。スポンジが凹んで綺麗な曲面に削れます。平面に削る時には固い板の上に耐水ペーパーを敷いて削るのですがシャープなエッジは欠けやすいので注意してください。時々耐水ペーパーを水で流し、表面に残留している砥粒を洗い流します。残っている大きな砥粒がガリッと深い傷を付ける事を避けるためです。残留砥粒を洗い流してしまえば耐水ペーパーに残っている砥粒は小さなものばかりですので大きな傷が入る危険がありません。よって、形が整うまでは次々と新しい面で擦り、形が整って大きな傷を無くしたいと言う状態になったならばペーパーを変えずにテレテレになった面で削ってください。

3.研磨
表面に大きな傷が無くなったならば研磨工程に入ります。どのくらい傷が無くなったら研磨に入れるのか?と言う質問をよく受けるのですが、これは説明する事が難しいデス。経験で覚えていくしかないでしょう。最初は、非常に傷が小さくなるまで丹念にサンドペーパーで磨きこむよりも、大きな傷は無いみたいだ!と思ったら研磨してみるのが良いでしょう。多分、研磨が進むに従って無いと思っていた表面の傷がハッキリ見えてくると思います。研磨では取り切れないと思ったならば、またサンドペーパーの工程に戻りましょう。(テレテレになったサンドペーパーは捨てないで取っておいてね)また傷が無いと思えるまでサンドペーパーで削ってから再研磨してみて下さい。多分、これを3回も繰り返せば見事に深い傷が消えるはずです。そうやっているうちに、このくらいの傷ならば研磨で取れるだろうと言う経験値が出来てくるのです。
オパールの研磨には酸化セリウム(CeO2)を使います。白色に近い酸化セリウムの方が純度が高いと言う方がいますが、これは間違いです。例えばアルミナは真っ白な粉ですので、高純度で白色の酸化セリウムにアルミナが残留していても色は真っ白となりますが、大きなアルミナ粉が混ざっているといつまでたっても傷が消えません。因みに、オーストラリアの工房では赤に近いピンク色の酸化セリウムを使っていました。多分、品質は良いのだが色が赤茶けているので安く手に入るのだと思います。不純物が柔らかいのならば色が赤茶でも傷は入りませんから。
柔らかい布、或はセーム皮の上に水を垂らし、酸化セリウムを付けて擦って下さい。細かい傷であれば10分もしないうちに艶が出てくるはずです。酸化セリウムとオパール(=ガラス)は化学反応で研磨が進むので水と熱(摩擦熱)は必須です。細かい酸化セリウムでゆっくりと擦れば削れるスピードは遅くなります。粗い酸化セリウムで早く擦れば削れるスピードは早くなります。ここら辺の具合も実際にやってみた人でないと判らないと思います。研磨しては表面をティッシュで拭き傷を確認し、また研磨しては確認しの繰り返しで満足のいくまで研磨しましょう。

4.石を外して乾燥させる
満足いく状態まで磨いたならば石を冷凍庫に入れ15分程冷やします。十分に冷えるとワックスが脆くなり容易に割る事ができるのです。手では割れない場合には、ニッパーなどでドップスティック側を割って下さい。オパールに負荷がかからない様に注意しましょう。ドップスティックから切り離されたオパールにはドップワックスと接着剤が付いてるはずです。この二つはアセトンと言う薬品で溶かす事が出来るのです。身近なアセトンは、瞬間接着剤の剥がし液(粘度が高い物は何か別の薬品が多く含まれていますので、粘度の低い物を使いましょう)或はネール剥がし液(非アセトンと書いてるものはアセトンではありませんが、一般的にはアセトンが使われています)です。たっぷりと付けるとワックスや接着剤は軟化して剥がれるはずです。溶けた液はまた表面で固まりますので完全に除去できるまで丁寧に拭き取りましょう。完全にワックスと接着剤が除去できたならば、表面を水で洗い、付着している水を拭き取ってから小さなタッパー(百均で4個まとめて売っているような小さな奴が良いです)に入れます。そのまま一日置いたならば蓋を開け、中の水分を逃がしてまた一日置きます。これを3~4回繰り返して下さい。そうするとふたを開けたら直ぐに白く白化するようになります。この状態になったならばそのまま自然乾燥させましょう。
何をやっているのか?と言うと、ゆっくりと石の中の水分を出しているのです。石の中に水分が入る時には毛細管現象で一気に入って行きますが、乾く時には表面の細かい孔やひび割れから揮発した分だけ水分が抜けていく事になります。そうすると乾いた表面と水分を含んだ中心部と言う二つの状態ができてしまい、乾いた表面に引っ張り応力がかかってしまうのです。引っ張り応力がかかると肉眼では見えないような微細なマイクロクラックやポーラス(孔)が引き裂かれて見る見るうちにヒビが拡大して行きます。これがエチオピアオパールは水に漬けると割れやすいと言われる所以なのです。これを防ぐためにゆっくりと水分を抜いていきます。タッパーに石を入れると表面で気化した水蒸気がタッパーの中に充満し、タッパーの中で平衡状態を作り出します。つまり乾燥が進まなくなるのです。中に充満した水蒸気を逃がしてまた蓋をすると、表面近くの水分が水蒸気となりやがてまた平衡状態になります。これを繰り返す事で乾燥のスピードを非常に遅くすることができるのです。蓋を開けたら直ぐに白く白化する状態とは、マイクロクラックやポーラスの中の水分が粗方出てしまい、水蒸気がクラックやポーラスの壁面に捕まって曇った状態になっていると言う事ですから、表面だけに引っ張り応力がかかると言う状態を避ける事ができたと言う事です。何事も完璧と言う事はありませんが、この方法が一番安全に乾燥できる方法だと思います。

5.保存
ルースケースに入れて机に引き出しに入れておいたのに黄変してしまった、と言う話を聞く事があります。自然の鉱物なので色々な不純物が内包されていて、色が変わるのは仕方がないとも言えますが、保存方法でもある程度黄変を避ける事が可能です。一番良くある黄変の原因は「硫化」です。(酸化ではありません)硫黄(化学記号「S」)が近くにあると結びついて黄変が起こるケースがあるのです。一番良く知られているのは接着剤です。硫黄成分が入っている接着剤は黄変しやすく、入っていないものは(紫外線により分子鎖が切れると黄変の原因となりますが)黄変しにくいのです。よって、ゴムやスポンジ、接着剤等の硫黄を含む物質に接触させておいたり、一緒に密閉させておくと黄変の原因となるかも知れません。オパールを扱う業者さんは小さなジップに石を入れておくことが多い様です。ジップならば硫黄成分が無い上に外部からの侵入もある程度防げます。水の付着や急激な乾燥から石を守る事もできます。ルースケースに入れて綺麗に並べておきたいと言う気持ちは分かりますが、石にとってはスポンジと一緒に密封されているルースケースよりもジップ袋の方が快適かも知れません。ついでに言うと熱はクラックを発生させる原因になるので注意して下さい。特にエチオピアオパールは水分が多い石で、10wt%くらい水が含まれていると言います。水は熱で膨張しますから、大変大きな力が石にかかる事になります。人の体温くらいならば問題はないと思いますが、触れて熱いと感じる状態に置くのは避けましょう。オパールが熱や乾燥に弱いと言う事は良く知られているので注意をされている方が多いのですが、一番危ないのはルースケースや下敷きのスポンジが黒色だと言う事を失念している時です。直射日光が黒色に当たるとかなり温度が上がってしまいますから、エアコンの効いた部屋の中でもルースケースが直射日光に当たらない配慮は必要です。逆に、身に着けているならば熱いと直ぐに判りますから比較的安全なのですが...



ふぅぅ...今日はこんなもんで勘弁してやろう...

水晶のファセット [宝石加工]

ここの所、水晶を切っております。

諸般の事情で池袋ではJ&Lの製品を展示しない事になりまして、次の横浜手作りショーまでは少々時間があると言う事で水晶のファセットを切り溜めております。水晶は癒しや浄化の石と言われており、ミネラルショーではクラスターやポイントをお求めになる方が圧倒多数で、加工した水晶はハンドメイドショー等で素材として購入される方が多かったのですが、どういう訳かミネラルショーでも水晶のファセットが良く出る様になってきました。

ファセットされたダイヤモンドがキラキラと光るのは良くご存知と思いますが、水晶でも(他の石でも)ダイヤモンドの様に美しく光ります。キラキラ光る理由は入射した光が全反射して戻って来るからなのですが、屈折率の低い水晶でも上手く設計すればほとんどの光が全反射してくるのです。(分散が小さいのでファイヤーはダイヤに劣りますが...)しかし、手数をかけても水晶では高く売れませんから正確にカットされた水晶を見る機会は少ないかも知れません。画像ではキラキラ感が判りませんが、今回カットした水晶がコレ⇓です。ショーで現物を見て頂ければ良いのですが...

QUARTZ FACET.jpg

結構気に入っているのがツイスターと言うスフェアー(球形)カットです。(最上段の右から2番目)ブリオレットは良くあるのですが、スフェアーはあまり見ないですね。ツイスターとは竜巻とか螺旋とかねじれと言う意味ですが、整然としたねじれがとても綺麗。透明な水晶だけでなくアメシストやシトリンでも切ってみたいカットですねぇ。原石を入手して切ってみようと思っていますデス。

宝石研磨セット③ [宝石加工]

三回目にしてようやく作業の説明です。なが~い文章を読むと何だか大変な作業の様な感じがするかもしれませんが、実際にやってみると大した事はありませんのでご安心を。

今日は準備編とでも言いましょうか、下ごしらえを説明しましょう。

まず、不要な部分をカットします。(プレフォームと言います)プレフォームが上手くいくと後の作業が楽になります。

エチオピアオパールの場合、ニッパーで割って形を整える事をお勧めしています。粗いサンドペーパーやダイヤモンドヤスリ、リューター等でプレフォールする場合、摩擦熱でオパールが割れてしまわないように、必ず水を垂らして熱を逃がしながら削らなくてはなりません。しかし、エチオピアオパールは吸水すると透明になりますから、遊色の具合や変色部分が見えなくなってしまうのです。ドライ状態で割って形を整えるのならば、遊色の無い部分や変色している部分を確認しながら作業が出来ます。しかし、思った様に石を割るには経験が必要ですから、形を整える程度のプレフォームで止めておきましょう。(大胆に割ると石がどんどん小さくなって、ついには細かいカケラの集まりになってしまいますヨ)

大切な注意を忘れていました。石を加工する際には「必ず保護具を着用して下さい」。安いゴーグルで結構です。メガネは保護に役立ちますが、横からの飛び込みは防げません。小生は自作の透明ボックスを作って絶対に破片が飛んでこない様に工夫をしています。割れたオパールは鋭いガラスの破片と同じで大変危険です。もし、目に入ったならば擦らずに水で洗い、それでも取れなければ直ぐにお医者さんへ行ってください。同様に、ニッパーは先のとがった刃物です。細かい物を割ろうとすると手が滑って指を傷つける危険があります。手袋などの保護具を着用して下さい。作業はご自身の責任で行って下さい。作業においていかなる事故や怪我が発生しようとも、J&Lおよび私は責任を負えない事をご承知ください。

次は、ドップスティックに石を留める作業です。

同梱のドップスティックは既に先端にドップワックスを付けてあります。アルコールランプをお持ちでしたらワックス部分を遠火で炙り少し軟化させます。ワックスはある温度になると急に溶け出し、あっという間ドロドロになってしまいますので、そうなったら触ってはいけません。指に付くと火傷をする危険性がありますから。(ろうそくの溶けたロウをイメージして頂ければ良いと思います)さわれる程度、且つ指で押すと変形する程度に熱したら、石の貼りつけたい部分をワックスに押し当てて型を取ります。アルコールランプをお持ちでない方はワックスの付いている部分をできるだけ高温のお湯に20~30秒浸けて温めてください。ランプで炙った場合と同じ状態になるはずです。

石の型を取ったならば合いマークを入れておくと良いでしょう。石とドップスティックを離した途端に向きが判らなくなってしまいますから。

ワックスが冷えて固まったならば接着部分に1~2滴の瞬間接着剤を垂らし、再び石を押し付けて接着します。(指を一緒にくっつけてしまわない様に注意してください)この方法ならば石に熱をかける事無くドップスティックに石を留める事が出来るのです。ドップワックスは瞬間接着剤(シアノアクリレート系)で溶けるので、多少の隙間があってもピッタリとくっつくと思いますが、大きなギャップがある場合はゼリー状の瞬間接着剤を使うのが良いでしょう。完全に接着するまで30分くらい待ちましょう。

これで準備は完了です。次回はようやく研磨に取り掛かります。

閑話休題。雑談を少し。

エチオピアオパールは割れやすいと言うのは...確かです。但し、これはオーストラリアやメキシコのオパールと比較すればという事です。耐熱性も、耐圧性も、乾燥によるクレージング発生も、エチオピアオパールの方が弱いでしょう。しかし、それが宝石として決定的問題になるレベルか?といえば、そうでは無いと私は思います。例えば、真珠や琥珀、スフェーンやエメラルドだってかなり弱いですから。そういう特性なのだと言う事を理解して正しく使えば、この価格で宝石の中でもトップクラスの美しい石が手に入ると言う点において、エチオピアオパールは他の宝石を圧倒するスーパーコストパフォーマンスであると確信しています。

エチオピアオパールはドライで磨くと言うカッターが居ます。理由は「水に浸けると割れてしまう石があるから」と言う事です。吸水すると内部に溜まっていた応力が解放されてクラックが入る石があるのです。(オーストラリアのオパールでも産地によっては割れる石がありますヨ)水を使わなかったから加工中に割れなくて良かった、しかし、宝飾品になってから水に触れてしまい割れてしまった...となるのは如何なものでしょうか?指輪をしたまま手を洗ってしまった、ネックレスをつけたままシャワーを浴びてしまった、ブローチが雨で濡れてしまった、宝飾品は水に触れる危険が沢山あります。清水の舞台から飛び降りたつもりで購入した宝石が、水に濡れただけで割れてしまったならば...多分泣きますねぇ...。しかし、宝石店はわざわざ水に浸けて割れないか?なんてテストはしません。お客様の手に渡ってから割れてしまったものは保証もできません。だから、少なくともカッターは吸水しても割れないと言う確認をする必要があると思うのです。それでも使用中に割れてしまうことを完全に防ぐことはできないでしょう。これはエチオピアオパールだけでなく、他の宝石でも同じことですから。私は少しでも表面に傷が付かないように、水から守るように、UV硬化樹脂で保護コーティングすることをお勧めしています。

宝石研磨セット② [宝石加工]

少々回りくどくなりますが、今日は個々の材料について説明しましょう。

まず、あまり馴染のないドップ棒とドップワックスです。

石をつまんで研磨すると爪を痛めたり石が飛んでしまったりして危険です。そこで棒に石を留めて研磨するのですが、この石を留める棒をドップ棒(ドップスティック)、石と棒をくっつけるワックスをドップワックスと言います。ドップワックスは熱を加えると軟化しますから形状を自由に変えることができます。そして、火で炙ってドロドロに溶かすと石にへばりついて固まり石を留める事ができるのです。普通はアルコールランプで炙って、溶かしたり成形したりして使います。ろうそくやライターは煤が出るので使えません。ガスバーナーやコンロでは火が強すぎます。(ドロドロに溶けたワックスが指に付くと火傷をしますし、樹脂なので燃えますから危険です)石が冷えているとワックスが表面ですぐに固まってしまいくっつかないので石も炙って温めるのですが、この時に石が割れてしまう事が間々あります。上手く石をドップに付けられれば一人前と言われるくらい加減が難しいので、簡単に留める方法として瞬間接着剤で接着する方法を次回紹介します。

次に馴染が薄いのは酸化セリウム(CeO2、以下セリアと呼びます)でしょう。

セリアはガラスの精密研磨に必須の材料です。セリウムはレアアースの一種で、中国がレアアースの輸出を制限すると発表した時に、ガラスやレンズの精密研磨が出来なくなると大騒ぎになりました。精密研磨にセリアが使われる理由は、セリア+シリカ+熱+水である種の化学反応が起こり分子レベルでSiO2を剥離させることが出来るからなのです。このメカニズムについては色々な研究がなされていますが、未だ完全には解明されていない様です。(興味のある方は第8 回ガラス技術シンポジウムの論文「ガラスの研磨理論と酸化セリウム代替研磨剤」をご参照ください)磨きと言うのは次々と細かい砥粒に代えてゆき、表面の傷をどんどん細かくして眼では見えない様にすると言うプロセスが普通なのですが、SiO2系の石ならばどんなに細かいダイヤモンドパウダーよりもセリアの方が美しい面を出す事が可能なのです。何しろ分子レベルで表面が剥離しますから、大変美しい艶が出ます。セリアは日焼け止めにも使われている材料で、人体には無害と言われていますので、安心して使ってください。(しかし、舐めたり、飲んだり、目に入れたりしてはいけませんヨ!)

次は身近な耐水ペーパーですが、これが結構深いんです。オーストラリアで大量にオパールを加工しているプロのワークショップとも色々と意見交換をさせて頂きましたが、全てのプロショップが日本製の#600耐水ペーパーを使っていました。その理由は...?

耐水ペーパーの砥粒はSiCですから硬度9の非常に固い材料です。(ルビー、サファイヤでも傷が付きます)よって研磨のメカニズムは「表面に傷を付ける事で削る」と言う事になります。#600と言うとかなり粗い砥粒なのですが全て同じサイズで揃っていると言う訳ではありません。ふるいにかけてはありますが最大72um、平均25~35umの粒度分布を持っているのです。新しい面で最初にガリっと擦った時には大きな砥粒が表面を深く削りますから、石はどんどん削れて行きます。しかし、強く当たった大きな砥粒は何度か擦られている内にポロリとペーパーの表面から落ちてしまいます。繰り返し擦っていると次々に大きな砥粒が落ちてしまい、#600だったはずのペーパーは#1000くらいになってしまうのです。(ペーパーの表面を指で触ってみると実感できます)それでもまだ擦り続けると、また直接当たった大きめの砥粒が次々と剥がれ落ちて#2000くらいになってしまいます。延々と擦り続けて行けば、表面の砥粒は全て剥がれ落ちて紙に擦りつけている状態になってしまうでしょう。(その前に破れてしまうと思いますが...)上手い事に、サンドペーパーは使っている内に自然に番手が上がってくれる言う訳なのです。だから、何種類ものサンドペーパーを用意する必要はありません。オパールを削るには#600から砥粒が脱落するパターンが一番合っていると言うのが長年オパールを研磨して来たプロ達の結論なのです。しかも、日本製が最高!とわざわざ日本から輸入して使っています。多分、日本製は粒度分布管理が良いのではないかと思います。私の経験でも、#600である程度照りが出てくると仕上磨きに移る一番良い状態になります。目の細かいペーパーの方が綺麗に磨けるのではないかと、#600の次に目の細かいサンドペーパーを使ってみた事もありますが、使い初めに鋭い傷が入ってしまい、延々と磨いてもその傷が取れないと言う問題がでる事があります。砥粒が非常に細かいので深い傷が取切れないのです。宝石研磨のスクールに行くと、延々と、力の限り、変質狂的に、表面がテレテレになって砥粒が無くなるまで#600で磨かされます。しかし、趣味でやるならばそんなに苦労する必要はありません。どんどん新しいペーパーに代えて、凹凸がなくなってきたら同じペーパーで砥粒の脱落に任せて研磨していけば良いのです。

カボションの様な曲面を作りたい場合にはスポンジ(厚さ5mm)を敷きます。

平面を磨きたいときには下に平らな板を敷くと良いでしょう。例えば、まな板の様な平らな板が良いと思います。私は100均で買った小さなまな板を下敷きにしています。水分を吸うと反ってしまうのですが、その反りが微妙に具合が良かったりするのです。全くの平面で磨きたいときには金属板を用意すると良いでしょう。私はファセット用のアルミSTDディスクを下敷きにして磨いています。カボションを磨きたいときには、下にスポンジを敷いて磨きます。スポンジが凹んで自然なカーブが作れるのです。微妙な凸凹に沿って磨きたい場合(カービング)には、指でサンドペーパーやクロスを押し付けて磨きます。しかし、不整面を仕上げるのはかなり時間もかかりますし難しいので、最初はカボション形状にトライするのが良いでしょう。リューターを使いたいと言う方が多いのですが、ハンドリューターは回転数が早すぎてオパールの研磨には向いていません。低速で回すとトルクが無くなり強く押し当てると止まってしまいます。リューターを使うのであれば、歯医者さんで使っているようなモーター別置きの低速トルクが大きい機種が良いでしょう。

研磨クロスはセリアで磨く時に使います。

研磨クロスは良くあるシルバー磨き布の様に「研磨剤が付いた布ではありません」。ただの布です。クロスの上に水を垂らし、そこに少量のセリアを乗せて石を擦りつけて磨きます。帝人のハイレークは宝石クリーニング用(研磨剤無し)に使われている布で、大変吸水性が良く表面の起毛が揃った布です。固い平らな板に直接セリアを乗せて水を垂らして磨いた方が完全な平面が出来るはず...と言うのは原理的に正しいのですが(実際、ファセットカットはそのようにやるのですが)、セリアパウダーの中にも不純物がありますから、不純物が固い板と石の間に挟まると大きな傷を付ける危険性があります。柔らかな下敷きがあると、セリアも不純物も下敷きに潜りこんで先端だけが均一に当たる様になりますので大きな傷は付きません。(ファセットカットでも、プラスチックシートにセリアを展着したウルトララップと言うシートを使います)布では無くセーム皮を使われている方も多く居ますので、色々と試してみて、研磨剤や磨き方に合ったクロスを見つけるのが良いでしょう。

大変長くなってしまいましたねぇ...次回はようやく磨きのプロセスです。

宝石研磨セット① [宝石加工]

店頭には出していないのですが、密かに「宝石研磨セット」なるものを販売しています。

J&Lでは原石の美しい部分だけを使いたいので、最初に使わない部分を切り落とします。こういった切り落としや加工するのが難しい小片はサービス品として格安に販売して好評を得ております。まあ、格安の切り落としでも和牛は美味しいと言うわけなのです。お客様から「小さくても良いから自分で加工してみたい」「一部分だけでも良いから磨いてみたい」と言うお話を度々伺う事があったので、それでは小生が使っている研磨材料を小分けパッケージにし「宝石研磨セット」として提供しましょうとなった訳です。

何故店頭に出さないかと言うと、既に30セット以上販売しているのに、お客様から「上手く磨けた」と言うフィードバックが全く無かったからなのです。「もしかしてだけど、もしかしてだけど、このセットじゃ上手く磨けないんじゃないの♪」と自信が無くなっていたのですが、ようやく今回のミネラルフェスタで「上手く磨けた!」と「上手く磨けなかった!」両方のご意見を頂く事ができました。そこで、このブログで上手く磨く為のコツを紹介して行こうと思っています。説明の為に文章が少々長くなってしまいますがご容赦下さい。

まず今回は「宝石研磨セット」なるものの内容を紹介しておきましょう。ほとんどはユニディーや東急ハンズで購入できますから、ご自分で集めても良いでしょう。

「宝石研磨セット」の内容物は以下の通りです
① 耐水ペーパー<#600> 小片2枚(ユニディー等で入手可能)
② 研磨剤<酸化セリウム>約10g(東急ハンズや楽天等で入手可能)
③ 下敷き用スポンジ<5mm>大、小 各1枚(ユニディー等で入手可能)
④ 研磨クロス<帝人ハイレーク> 1枚(高吸水タオル等で使われている)
⑤ ドップワックス付きドップ棒 2本(ドップ棒はΦ5X50mmの木)
⑥ 「エチオピアオパールの磨き方」説明プリント

宝石研磨セット.jpg

上記以外に「瞬間接着剤」「瞬間接着剤はがし液」「小さいタッパー容器」が必要です。「アルコールランプ」や「水溶液用ボトル」があるとより便利です。

酸化セリウムは東急ハンズで購入が可能ですが少々お高いデス。(楽天のハンズショップでは45gパックで1440円+送料)ドップワックス(緑)は入手困難。このワックスは宝石加工するときに使うもので、日本ではほとんど需要が無くなっています。研磨用クロスは吸水性の高い布やセーム皮であれば代用可能かも知れません。お客様からの要望を受けて、酸化セリウムとドップワックスはミネラルフェスタで小分けパック売りしようと考えています。

この研磨セットはオパールを磨く為のセットなのですが、水晶(モース硬度7)くらいまでの石は磨けると思います。水晶より硬度の高い石(例えばモース硬度9のルビーやサファイア)は磨けません。それから非常に硬度の低い石(方解石や蛍石等)の照りを出す事は出来ません。柔らかい石をピカピカに磨くのは結構難しいデス。

次回は夫々の材料の役割を説明したいと思います。

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